ベニテングタケ体験がどのようなものであるかは一概には言えない。その効果はキノコの各個体によって異なり、個人差も大きく、どんな環境で体験をするのかにも左右されるからだ。私たちは5名という少人数で、たった6回の実験しか行っていない。当初は6名だったが、そのうち1名は不快な体験を嫌がり、1回目の実験後に辞退した。 数々の報告データを検証した結果、キノコの作用を左右する重要な要素は、収穫時期にあることがわかった。シーズンが始まったばかりの8月中旬に収穫したキノコが特に強力なのだ。9月に収穫したキノコは、麻薬のような酩酊効果、身体的効果が顕著で、8月に収穫したキノコは視覚的でサイケデリックな効果が目立つ。 言うまでもなく、どんなサイケデリック体験にも共通することなのだが、体験者個人の性格や目的、姿勢、気分、過去の経験にも左右される。実際、この実験でも、瞑想的、内省的な事柄に関心がある者には、ベニテングタケはそのような効果をもたらしたし、単純にハイになることだけに関心がある者にとっては不快な体験でしかなかった。
ベニテングタケの効果はきわめて個人的であり、みな、人と関わりたがらないため、他人と接するグループワークはうまくいかなかった。もしかしたら、その道に通じたガイド役がいなかったためかもしれないので、その点は強調しておきたい。体験に対して抱いている期待や、個人的な信念に関しては詳しく調査していないが、宗教的体験やトランスパーソナルな体験をした者は、もともと宗教的な啓示を強く望んでおり、シャーマニズムにも通じている者であったことを覚えておきたい。もう一点押さえておきたいこととして、食事制限(服用前の断食)がある。2-3日前は軽い食事のみに控えておき、当日は断食をする。そうすることで、第一ステージにおける吐き気を和らげ、終始リラックスした体験ができるのだ。
ベニテングタケ体験は、3つのステージにわけられる。吐き気や嘔吐の症状(吐き気は、はっきりしたものだが、実際に嘔吐することは稀)が現れる第一ステージ、麻薬のような抑制効果が優位になる第二ステージ、そして第三ステージでは、人によってはヴィジョンや幻覚を体験する。摂取量は、8月の収穫物なら一つか二つ、9月中旬なら四〜五つというように時期により変化する。8月のキノコのほうが強力であるため、9月には量を増やさなければならない。しかし量を増やしたからといって、まったく同じ効果が得られるというものでもない。9月のキノコは吐き気などの身体的副作用が強く、麻薬的抑制作用や幻覚体験は少なめである。
ベニテングタケ体験では第二ステージが特徴的だ。第二ステージでは、程度の差こそあれ、麻薬のような抑制効果が現れる。眠りに落ち、ふつうの夢を見るか、あるいは「ある種」の夢を見ることがある。「ある種」というのは、ベニテングタケ状態では「明晰感」を伴う色彩豊かな明るい夢を見ることがあるからだ。毎回見るわけではないが、8月に行った2回の実験中では5件、そのような報告があった。確率にすると45%におよぶ。夢を見ている最中、体験者は自分が夢の中にいることを知っていて、ふだん起きているときの現実とはどこか違うということもわかっている。第二ステージ中にあった3名の者が、眠っていながらにして、同時に周囲の状況を把握しており、外部の音もきちんと聞こえていたし、室内でおきた出来事もよく覚えていたと報告している。「なにか」と会話をしているような不思議な感覚を体験することがあるのも、この第二ステージである。私自身の体験を振り返ると、当時悩んでいた個人的な問題について問いかけられ、突然、鮮明なイメージが頭に浮かび、内面的な気づきを得たことを覚えている。あれから数年経過した今でも、このイメージは、人生の行方を決定した重要な意味を含むものとして忘れられずにいる。
第三ステージでは、もっぱら典型的な変成意識状態を体験する。第一回の実験中、第二ステージから第三ステージへ移行する段階にあったある者は、次のように言った。「夢見心地のなか、内面の深いところで神的な自己を見つけ、深くスピリチュアルな知見を得た」宗教的な体験はこの1件のみであった。 それよりも頻繁にみられる体験は、身体の左半分に自分の意識を残したまま、身体が真っ二つに裂かれるといった、身体感覚の変化である。めまいを起こしたり、まっすぐに歩けないといった方向感覚の喪失感もまた、第三ステージで一般的な現象だ。 このような体験は、第三ステージの特徴である夢見の状態で起きており、どの体験者のケースでも例外はなかった。夢見状態においては、外部のリアリティが内面の世界として映しだされ、そこには自分をかえりみるヒントが詰め込まれている。
ときに、物体の見え方や感じ方にも変化が現れ、周囲へ向かって身体が膨張してゆく感覚や、並外れた感覚機能の変化が起きる場合もある。全員がこのような場合においても、ふつうではない意識状態におかれていることをはっきり自覚しており、実験中、常に自分を保ち続けていた。イメージの出現は、体験のピーク時(第一と第二ステージの間)に多く、はっきりした鮮明なものが現れた。たとえば、思い浮かべたことが即座に画像に変化するという特別な類いの想像力だ。これは6名が体験した。
ベニテングタケ状態の最中、内面のイメージや身体感覚の心地よさにひきこまれてボンヤリしてしまい、集中力をコントロールしにくいという不満が聞かれた。記憶力への影響はとくにないようであった。誰も実験中の記憶力の低下は感じていなかった。また、いらだち、怒り、羞恥、罪悪感などのネガティブな感情を訴えた者も皆無だった。性的な感情や、愛情、歓喜、多幸感も欠如していた。感情が湧いてこないため、離人感を覚えたと言う者もあった。意思が機能せず、体験内容や思考、イメージなどのコントロールはほとんどできないが、それはそれでよしとし、一歩ひいたところからその状況を受けとめた者もあった。
ベニテングタケの何よりも優れた性質は、自分自身への静かな語りかけ(サイレントトーキング)にあると思う。それは、自分の人生においての大切な啓示が湧き出てくる内面の対話のようなものだ。そのときの感動は、体験後も長い期間消えることがない。この件に関しては、特定のグループを対象にしたさらなる研究が必要であろう。自分のことをよく知るために、このキノコから学ぶことは多いだろう。
オリジナル記事