エンセオジェンとは

神々のドラッグ〜エンセオジェンってなあに?

Entheogen(エンセオジェン、エンセオゲン)とは、 意識の変容をもたらす物質で、主に植物や菌類に由来するものを指します。昔から世界各地の宗教儀式や先住民のシャーマニズム、スピリチュアルな探求の中で使われてきました。もうちょっ広義には、植物だけでなく、人工的な化学物質も含めて、脳内の神経伝達物質に作用し、神秘的な体験を呼びおこしたり、治癒力を発揮したりする不思議な向精神性物質のことをいいます。一般的には、幻覚剤、サイケデリックドラッグとして知られる類いのものです。

Exaltation of the Flower

ギリシアの彫刻“Exaltation de la Fleur” (exaltation of the flower) 手に持っているのはキノコ?

語源

Entheogenは、古代ギリシア語のentheosとgenesthaiに由来する造語です。entheosは、神がかり的な状態とか、シャーマン的な意識状態と言っていいと思います。これは、熱意や情熱を意味する英単語であるenthusiasmの語源でもあります。genesthaiは、それになる、創造される、という意味。人の意識の中に、神秘的な意識状態を喚起する、そんな意味です。

似たような用語で、幻覚剤を意味するHallucinogen(ハルシノジェン、ハルシノゲン)があります。 医療や化学の分野などでよく使われる用語です。60年代のヒッピーカルチャーの中で生まれたPsychedelic(サイケデリック)という用語もありますね。

1979年、マジックマッシュルーム研究の第一人者ゴードン・ワッソン、植物学者のジョナサン・オットーやリチャード・エバンス・シュルティス、神話や宗教の研究者カール・A・P・ラックらのグループが、これらにかわる用語として「エンセオジェン」を提案し、確立しようとした。なぜ、新しい用語が必要だったのか。ハルシノジェンはハルシネーション(幻覚)に由来することから、 精神錯乱を思わせる、病的な危なさを感じさせます。サイケデリックもサイコシス(精神病)に似ていますし、60年代の乱用の印象がどうしてもつきまとう。このような用語だと、先入観が邪魔をして、幻覚性植物の神秘の力が正しく評価されないと考えたわけです。

歴史の中にみるエンセオジェンの神秘の力
タッシリのマッシュルーム壁画

タッシリの洞窟壁画

人類とエンセオジェンの関わりはとても長く、はるか昔までさかのぼることができます。最も古いものだと、紀元前8000~5000年頃のものといわれている、サハラ砂漠のタッシリ洞窟壁画があります。ここには、全身からたくさんのキノコがニュキニョキ生えている人型の絵が描かれているんです。また、最古の遊牧民スキタイ人は、 葬儀の場で、大麻の蒸気を吸いこみ身を清めていたし、中米のアステカやマヤ遺跡からは、キノコの形をした石像や、幻覚性植物の装飾が施された像が出てきている。紀元前2000年頃のインドやイランでは、ソーマと呼ばれる、なんらかのエンセオジェンを宗教的集いで使用していたことが、教典リグヴェーダに記録されていたり、古代ギリシアのエレウシスの秘儀のクライマックスには、キュケオンと呼ばれる飲料をみんなで飲んで、トランス状態になっていたそう。キュケオンの原料である麦に、幻覚作用のある麦角菌が寄生していたのではという説があるんです。

啓示を与え、奇跡を起こし、人を癒したイエス・キリスト。古い文献や言語の進化を研究していたジョン・マルコ・アレグロは、このような力を持つイエスの姿は、エンセオジェンの作用を擬人化した、シンボルのようなものだったんじゃないかと言った。なかなか信じがたい話だと思いますが、初期のキリスト教美術を見ると、たしかに聖餐として幻覚性キノコを食べていたらしいことが確認できるんですね。

北の国から空を飛んでやってくるサンタクロースの正体も、彼が着ている赤と白の服のような色のカサをもつ幻覚きのこ、ベニテングタケか、または、それを使うシベリアのシャーマンだといわれています。

しかし、このようなことは、キリスト教が大きくなり、政治的な力を持つようになるにつれて社会から抹消され、忘れさられてしまったようです。

キリストとマッシュルーム

(左)「聖エウスタキウスの伝説」ステンドグラスの一部 シャルトル大聖堂(中央)智恵の木とアダムとイヴのフレスコ画 Chapel of Plaincourault 13世紀(右)装飾写本The Paris Eadwine Psalterの挿絵 創世記の場面の一部 12世紀

過去〜現在〜未来

このように、宗教の起源や人間のスピリチュアリティの成長を見てゆく上で、エンセオジェンの果たしてきた役割は、どうしても無視できないと思うんです。言語の発明や、文明の発展も、エンセオジェンから得たインスピレーションがきっかけだったのかもしれません。

現在でも、エンセオジェンを使う宗教や、シャーマニックな儀式が世界各地に残っています。彼らにとって、エンセオジェンは、神やその土地を守る主と直接対話したり、村や部族の行方を予言したり、病気の治療をしたりする際に力をかしてくれる、大切な聖なる植物なんですね。

シャーマニックな伝統とは無縁な近代社会でも、エンセオジェンは活躍しています。多くのエンセオジェンは法律で規制されていますが、精神的な成長のための道具として、生活に取り入れる選択をする人が増えています。マテリアリズムによるストレス社会の中で暮らし、自然界のリズムからかけ離れてしまった魂のバランスを取り戻すため。自分のことをよく知り、人生をよりよく生きるため。

ノーベル賞を受賞したフランシス・クリックは、LSDトリップ中のひらめきでDNAのらせん構造を発見しました。初期のパーソナルコンピュータ技術は、サイケデリック文化が盛んだった北カリフォルニアからでてきました。近代社会のエンセオジェンは、芸術や科学、テクノロジー、ビジネスに応用できるクリエイティブなアイデアを授ける役割もはたしています。

また、視覚の変化を楽しんだり、仲間と踊って一体感を共有したりという娯楽としても愛されています。

そして、今後はさらに、エンセオジェンの作用から脳のしくみを解明したり、今まで治療の難しかった症状を緩和する臨床薬としても利用されるでしょう。死を迎える人々の気持ちを楽にしたり、心の病を癒すセラピーにも使われるでしょう。

エンセオジェンはずっと、私たち人間のそばにいました。仲良くやってきました。これからも、人類の成長を見守り、応援してくれていると思います。

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