スパイス&スピンオフ:ハイテク・マリファナ代替品の規制
アース&ファイアー・エロウィド(Love S. Dove・訳)
2009年6月

「スパイス」と呼ばれるブレンドハーブ製品の登場により、2006年、次世代レクリエーション・ドラッグが姿を現した。スパイスのラベルに示された成分を見ると、星の数ほどある類似製品と同様、さまざまなハーブとしか書かれていない。しかし最近これらの製品には、THCに似た効果をもつ合成化学物質が含まれていることがわかったのだ。スパイスやその類似品は、ヘッドショップやオンラインでよく販売されている、ほとんど効かない「合法ハーブ」と同じように売られているのだが、製造業者はスパイスを「お香」という名目で売りこんでおり、どういうわけか、喫煙用ではないのだ。

スパイス製品の登場は、グレーゾーンのドラッグ分野では、2000年代初期におきた「リサーチケミカル」現象以来の、なかなかおもしろい進歩だった。この新らしい進歩を成し遂げたのは、化学や薬学、科学研究に薬物検出法、マーケティング、さらに海外の薬物関連法律にまでおよぶ巧妙な知識の集大成だ。新手で、どうやら合法らしく、しかもきちんと効く薬物は、飛ぶように売れた。堂々と新しいレクリエーションドラッグを売り出せば、真似されたり規制されたりするまでの期間を縮めてしまう。そのため、政府機関とライバル業者の目をくらますかのように、有効成分の正体は秘密にされたままに。

スパイス:概要

2007年のはじめに、インターネットのフォーラムでスパイスについてはじめて読んだとき、この「ハーブ」の調合物は単に大麻のような効果をうたっただけのありふれたスモーキングブレンドではなく、なにかもっと違う新手のものではないだろうか、とすぐに思った。憶測と少ない体験談のほかにこれといった情報はなかったのだが、フォーラムに書かれていた効果を読むかぎり、パッケージに示されている内容物だけの効果と考えるには強力すぎたし、大麻に似すぎていた。この内容物の中に、これといった向精神作用のあるハーブはひとつもないはずなのに。スパイスを販売している米国内の業者がみつからず、ヨーロッパの業者には、製造元がアメリカへは販売しないように要求しているのだと言われた(後のパッケージでは「アメリカへの販売禁止」と明確に記されている)。私たちは、2007年3月にイギリスの業者からスパイスを購入し、すぐにバイオアッセイによって疑問に思っていたことを立証することができた。その効果はまぎれもなく、THCのような化学物質によるものだったのだ。それ以来、私たちはスパイス現象を追いかけるようになった。

オリジナルの小さな(7,6cm x 9.5cm)アルミ袋は、葉形の図に重なった独特の目のロゴをあしらい、その中身は、乾かしたり砕いたりした複数の植物の混合物のようであった。袋には13種の薬草や香辛料が記載されている。ベイビーン、ブルーロータス、ドワーフ・スカルキャップ、インディアンウォリアー、ライオンテール、マコンハブラバ、ウスベニタチアオイ、ピンクロータス、ムラサキツメクサ、バラ、メハジキ、バニラ、蜂蜜。

流通業者はスパイスを「お香」だとか「アロマ・ポプリ」であると触れ込んでおり、2007年のパッケージには「燃やすと豊かな香りを出す」「エキゾチック・ハーブ・ブレンド」と表記されている。また、「タバコ、ニコチンは入っていません」などとも書いてあるのだから、喫煙して使うことができるかのように聞こえる。パッケージの表に太字で書かれている「エイス(1/8オンス)という表現を見ても、大麻を連想しない人もいるかもしれないが、流通業者名「サイケ・デリ」を見れば、サイケデリックスとの関連性をゆるぎないものにしていると言えるだろう。スパイスには、いくつものバリエーションが存在し、スパイス・シルバー(2007年には単にスパイスだった)、スパイス・ゴールド(シルバーの2倍強力らしい)にスパイス・ダイアモンド(ゴールドの2倍強力らしい)や、トロピカル・シナジーとアークティック・シナジーといった、味・香りのバリエーション製品もある。

2008/2009年のパッケージには、「人体に摂取しないでください」とはっきり書いてあり、インターネットの販売業者も何度もそのように言っているのだが、実は、サイケ・デリはイギリスで、「お香」と「喫煙用ハーブ製品/タバコの代替品」として、スパイスを商標登録しているという事実がある。1

スパイス:効果

私たちは、オリジナルのスパイスを吸ったことのある人たちに聞き込みを行い、またエロウィド・クルーの中の何人かからも体験談がよせられた。インターネットフォーラムの投稿で、「スパイスは味つきのタバコを彷彿とさせる心地よいバニラの香りを伴う」だとか「質のよい大麻や大麻樹脂と比べると喉ごしが荒い」といった記述があり、これには全員が同意。特にはっきりした効果は感じられなかったと報告した者が1名いたが、ほとんどの人は大麻の効き方に非常によく似ていると言い、それはほとんどのハーブ系大麻代替品がそうであるような、「もしかしたら効いているような、いや効いていないような?」といったタイプの効き方とは明らかに異なっていた。スパイススモーカーたちは、「ストーンした」とか「大麻のようなハイ」を感じたと報告する一方、やはり大麻とはどこか違うという報告も後を絶たなかった。具体的な違いははっきり判明していないが、いくつもの体験談を読んでみると、スパイスの効き方は精神的なハイの度合いにくらべて、身体的な要素がより強いようであった。

スパイスのパッケージに表記されているハーブの中には、弱い向精神作用を持つものもある。しかし、エロウィド・クルーにはお見通しだった。そのいずれも、それ単体で摂取した場合に、スパイスの体験談で言われているようなレベルの効果はもたらさないないのだ。そのなかにひとつだけ、私たちに馴染みのないインディアンウォリアーというハーブがあり、これはおそらくPedicularis densifloraのことなのだが、後に調べてみるとやはり喫煙してもスパイスのような効果はないことがわかった。

スパイスの効果は、天然の大麻にとてもよく似ているので、たとえ経験の豊かな大麻スモーカーであっても、喫煙ののど心地や香りの違いを除けば、確信を持って両者を区別することができないかもしれないくらいだ。これは、合法ドラッグ界における実に新しく巧みな功績であり、製造業者には多くの収入をもたらしたことだろう。

銘柄と種類
Albino Rhino Buds, Aroma, Bombay Blue, Caneff 5 star, Chillin XXX, D-Raw, Dark Matter, Dream, Everlast, Ex-ses (Platinum), Experience: Chill, Experience: Ignite, Experience: Red Ball, Fusion, Galaxy, Genie, Gorilla, Herb Dream, Ice Bud Extra Cold, Kronic, Krypto Buds, Magic, Mojo, Moon Rocks, Pep Spice, Sence, Smoke, Solar Flare, Space, Space Truckin', Spice, Spice Arctic Synergy, Spice Tropical Synergy, Spice Diamond, Spice Gold, Spice Gold Spirit, Spice Silver, Spicey XXX, SpiceWorld420, Spice99 (Ultra), Spike99, Smoke, Splice Platinum, Star Fire, Yucatan Fire, Zohai, Zohai SX.


カンナビノイド・コンビネーション?

スパイスには大麻に非常によく似た効果があるとうい体験談が相次いでいたことから、私たちがまっさきに疑ったのは、これらの製品にはなんらかの合成または抽出された向精神性化学物質が少なくともひとつは入っているのではないか、ということだった。もっともありえそうな候補は合成カンナビノイドであろう。新種の合成カンナビノイドをグレーな市場で売りさばくというアイデアに関する与太話だったら、ここ10年近くのあいだに何度も耳にした。こういった話のなかには、できるかぎり最高に気持ちがよく、大麻に似かよったハイを作りだす目的で、ふたつ(またはそれ以上)の合成カンナビノイドを意図的に組み合わせる、というものもあったのだ。

大麻草に含まれるカンナビノイドの組み合わせの違いが、ユニークな効果をもたらすのだという通説があり、そのユニークさは、いずれの純粋な化学物質を分離して摂取した場合の効き方とは異なるものだ。この説を裏付ける研究もいくつかある。2マリノール(合成THC)を処方されている患者の多くは、大麻とくらべると、マリノールの効果はあまり好きでないという。大麻スモーカーのサブカルチャーでよく話題になるのは、大麻には少なくとも2種類の、はっきりと異なる効き方があるということだ。涅槃的(「ストーン」、体のハイ)と刺激的(「トリッピー」、頭のハイ)だ。いくつもある大麻の品種の違いは、どちらの性質が顕著であるかによる。

あまり馴染みのない合成のカンナビノイド受容体のアゴニストは数百種もある。その効果もよく研究されていない。2006年9月という早い時期から、インターネットのフォーラムではスパイスにはHU-210という、THCの50~400倍効く4化学物質/合成カンナビノイドが入っているのだという噂が流れていた。3しかし、HU-210を試したある者からは、HU-210は大麻よりもずっと長時間持続することから(スパイスの正体が)HU-210であるはずはないという反論もあった。また、ある薬理学者は微量のHU-210と他のカンナビノイドを組み合わせれば、うまく大麻の効果をまねることができるだろうと推測。そうすれば多量のHU-210単体の摂取よりも持続時間が短くなるのだ。

厳密な詳細がどうであれ、理論的には、化学者か製薬会社であれば、似たような化学物質をひとつ、またはそれ以上、複雑に混ぜ合わせたハーブに加え、大麻の似た効き方をするハーブ製品を作り出すことが可能であろうことは想像に難くない。

研究室で

2007年4月、私たちはスパイスのサンプルをいくらか、ドラッグ・ディテクション・ラボラトリー(DDL)に送った。DDLは、私たちがいつもEcstasyData(ecstacydata.org)用に、一般に出回っているエクスタシー錠剤の分析を依頼しているラボだ。なんらかの識別可能な化学物質、とくにカンナビノイドに注目して探すように依頼した。GC/MS分析がおこなわれたが、ラボのコンピュータ化された照合システムはトコフェロール(ビタミンE、内容物として未記載)以外の既知の化学物質を特定することはできなかった。試料はカンナビノイドには反応せず、ラボは「規制薬物の存在なし」という結論をだした。

マススペクトラムとは、試料の化学指紋とも呼べるものだが、これにはラボが特定できなかった大きな「ピーク」がいくつかあった。他の分析化学者にも結果を見てもらうように頼んだものの、謎の化学物質の正体を解明するという幸運にはついに恵まれなかった。

検出の難しさ

よくありがちな薬物分析に関する誤解は、組成のわからない植物や化学物質の混合物を、GC/MSやLC/MSといった分析装置の片方へ挿入すれば、その物質の成分の組成がもう一方からポンとでてくるものだと思われていることだ。物質の分析データがラボのデータベースに存在しなかったり、または試料中に分析データと重複する物質があったりすると、GC/MS分析の結果を読み解くには相当の時間と経験を要する。化学分析技術の知識を有する者であれば、故意に製品中の物質の正体をわかりにくくすることは大いに可能だ。もっともあからさまなやり方は、植物か化学物質を混ぜてしまうことだろう。そうすると、分析結果には製造者が隠したい化学物質によく似たものが現れる。分析結果を読み解く際に、まさか裏に別の化学物質がカモフラージュされているとは考えず、単に混ぜられた植物成分の存在だけに注目する化学者が多いのではないか。スパイス中のハーブはある意味、簡単に検出されることを妨げる目的で選択されたのかもしれない。


わかったぞ!:成分特定

スパイスに対して私たちと同様の疑問を抱いていた者は多く、あちこちの国でいくつもの組織が独自の化学分析を行ってきた。今日までにスパイス系製品中の合成カンナビノイドが、少数だが特定されている。2008年12月には、ドイツのフランクフルト市がはじめて、スパイス製品中の合成カンナビノイド・アゴニストの識別に最終結論を出した。本腰をいれて化学分析を行うために、THC Pharmという専門研究所と契約したのだ。THC Pharmはカンナビノイド・アゴニストであるJWH-018がスパイスに含まれていることを発見した。2009年1月には、米国税関がHU-210を含むスパイス製品を押収したという報告があったが、HU-210を発見したラボはたったひとつしかなく、この報告は今のところ信憑性がない。5

2009年1月、『ジャーナル・オブ・マススペクトロメトリ』誌がフライブルク大学のアウヴェルテル、ドレーセンらによる文書を出版した。それにはスパイスや類似品から見つかった化合物のマススペクトラム(「指紋(グラフ)」)が掲載されていた。カンナビノイド・アゴニストであるCP47,497の無名ホモログ(CP47,497の「尾」に炭素原子がもうひとつくっついている)こそが、スパイスの主成分であると著者らは同定したのだ。6

アウヴェルテルの論文で、スパイス、スパイスゴールド、スパイスダイアモンドの主なカンナビノイド・アゴニストとして同定された化合物のマススペクトラムが、私たちが依頼した2007年の分析結果とほとんど一致していたのを見て興奮した。なぜならCP47,497のホモログは、DDLの分析で、私たちが購入したスパイスからは特定することができなかった物質そのものであり、アウヴェルテルらが分析用のスパイスを購入したのより20ヶ月ほど前に、私たちがその分析を依頼していたからだ。5

疑問点はいくつか残っている。もしかしたら、いまだみつかっていない極めて微量のHU-210かその他の化学物質が製品に入っているのではないだろうか。現在販売されている製品中のカンナビノイドの組み合わせや強さのレベルには、どのようなバラツキがあるのか。場合によっては他にも検出を妨害している分析技術面の問題があるのではないか。今後この手の製品からどのような化学物質が発見されるのだろうか?

人気の高さ

2009年5月、”Spice Gold”でグーグル検索をすると521,000件がヒットし、数多くの業者が関連商品をEbay.comで販売していた。ときにはその一袋の値段は地元の大麻の相場を上回るほどで(3グラムパッケージが$35~$45。115アメリカドルで販売しているルーマニアのウェブサイトが1件あり)、あきらかにこれらの商品への相当な関心の高さがうかがえる。

スパイスはイギリス、ドイツ、ルーマニアで人気が高く、他のヨーロッパの国やアメリカ合衆国へも流通している。Erowidでは正確な売り上げに関する数字はつかめていないが、あるタレコミ(裏は取れていない)によると、2008年には1日に数千ドル相当のスパイス系製品を売り上げているヘッドショップがいくつもあったという。そして流通業者のサイケ・デリは、2006年から2007年の1年間で百万ドル以上も資産を伸ばしたと報告されている。7

2007年から2008年のスパイスの大成功により、40種以上ものコピー商品が急増した。なかには、”Spicey””PepSpice””Spike 99”“Splice Platinum”などとわざとらしく真似した商品名もある。さらにいくつかは、モンスターの目であるとか三角形の中の目といったように、スパイスのロゴの変化形をあしらっている。

イギリスの『ファイナンシャル・タイムズ』誌のすばらしい記事をはじめ、メジャーなニュース媒体もスパイスの存在を公に報道してきたし、『エンセオジェン・レビュー』のようなオルタナティブ出版物、Bluelight.ruなどのフォーラムでもスパイスの話題が取り上げられた。さらにDEA(米国麻薬取締局)が、その刊行物『マイクログラム』の2009年3月号でスパイスを取り上げ、ヨーロッパの政府は取り締まりに動き出した。

FOXYジレンマ

私たちエロウィドは、スパイスが新種の合成添加物を含んでいることが証明される以前の段階で、どのようにスパイス流行の情報を取り扱ったらよいのか悩んでいた。はじめてスパイスのことを聞いたとき、その効果の原因が比較的安全なハーブの組み合わせの驚くべき相乗効果によるものなのか、比較的安全でよく知られた化学物質によるものなのか、利益をあげるためだけに製造者が加えた害のある化学物質によるものなのか、それとも安全性の不明な未知の化学物質によるものなのかがわかっていなかった。新しい向精神性物質の詳細を解説することと、害があるかもしれない詐欺的な製品を意図せず宣伝してしまうこととの間の微妙な境界線というジレンマは、以前にも体験したことがあった。

2000年、エロウィドはグレーゾーンのリサーチケミカル5-MeO-DiPT(“Foxy”)の体験談を掲載しはじめた。使用者の数が拡大する前にその薬物に関する情報を掲載することで、うかつにも私たちはほとんどの人が知らないドラッグを宣伝するという結果になってしまったのだ。そして、この新ドラッグへの法機関の関心とマスコミの注目をあおったかどで、エロウィドは非難を受けた。この経験から新種の薬物に関する情報をいつ、どのように流し始めたらよいのかを学んだのだ。

はっきりした証拠が出る以前に、スパイスには合成カンナビノイドが入っているのではないかという推測をおおっぴらに語ってしまうことは、浅はかだと思った。私たちは知らないうちに安全性のわからない製品の宣伝者にはなりたくなかったし、秘密の合成化学成分の存在を主張することで、法機関の注意をむけさせたくもなかった。

合成成分の仮説を掲載すれば製品の売り上げは伸び、法機関の注目が高まるだろうという結論にいたった。現在の規制状況を考慮すると、警戒するべき情報を撒き散らすことでかえって逆の結果をもたらすのだから、なんともおかしな話だ。8

マリファナのように安全か?

スパイス製品は大麻の代用品として使用されるのだから、その安全性も喫煙による大麻と比較するのがよいだろう。エクスタシーの代用品であれば、その安全性は、MDMAよりも少しマシ(死亡リスクや神経毒性の低さ)かもしれないが、スパイス系製品の場合は逆に、大麻の安全性を確かなものにしてきた歴史的、科学的証拠の数々に真っ向から対立しているのだ。

喫煙による大麻は、一般的な酩酊以外にはとくに深刻なリスクはないということを膨大な疫学の研究と実験データが示している。9それどころか、健康な使用者であれば大麻を多用しても脳は損傷されず、10肺がん11や心臓病リスクの大幅増加もおこさない。12ただ中等度の呼吸器疾患の増加をおこすのみと思われる。13さらにいくつもの実験により、THCには抗がん性があることもわかっており、14,15神経を保護する作用まであるという。10

しかしながら、大麻の使用で偏執的な観念や不安感を体験する人がいることもよく知られている。精神病のきっかけになる可能性は、おそらくこの10年間でもっとも研究者の関心を集めている大麻関連健康問題であろう。もしかしたら、THC以外の向精神性カンナビノイド・アゴニストであれば、偏執的な妄想や潜在的な精神病の誘発はしないかもしれないが、スパイス製品がこういった利点を持っているという証拠はほとんどない。

わりとランダムなハーブの詰め合わせと、ほとんど検査されていない合成添加物とからなっているスパイス系製品を喫煙すると、どのような健康上の問題があるのだろうか。たとえある製剤が安全であっても、その他はそうでない可能性だってある。1mgよりずっと少ない量で恐ろしいほどの長時間(8時間)におよぶ意識不明、その後さらに長時間(48時間)、強烈な中毒症状をおこしたカンナビノイド受容体アゴニストが、少なくともひとつはあることがわかっている。16別のカンナビノイドでは、1mgほどで2日間以上のあいだ、意識がなくなったりもどったりという状態をくりかえした。17カンナビノイド受容体アゴニストは、呼吸や心臓血管系の致命的な抑制に関係あるものとして知られているわけではないし、18いくつもの研究用合成カンナビノイドは、ファイザーなどの製薬会社により品質審査されているのだが、使用が拡大すればそのほかのリスクが生じるかもしれない。

ブラックとグレーマーケットに氾濫するレクリエーションドラッグを、政府の資金で検査してほしいという住民の要望があるが、満たされていない。こういった製品の製造者は、適切な安全性の検査など決してしないのだ。今後も起こり続けるであろう長期的な問題だということを考えれば、公衆衛生団体は、一連の新薬物の検査をシステム化し、その開発と管理のために資金を使うようにもっと力を入れてほしい。理想的には、そういった検査では、発がん性や心臓血管系のリスクと、一般的なレクリエーションドラッグや医薬品との相互作用を調べ、さらに新薬物が他にも精神的、身体的な健康の問題を示すかどうかを算定するものになればよいと思う。

規制がおよぼす弊害

広く使われているレクリエーションドラッグを規制すれば、新型の薬物が現れ利益をあげるだろう。世界中どこでも、政府が新たなレクリエーションドラッグの規制に乗り気でないのは、そういった製品は、規制されないままであったほうがいいからなのだ。UNODCは現在全世界に1億5千万人以上の大麻ユーザーがいると見積もっている。事実上、彼らすべてが違法に使用しているわけだから、19きちんと効く大麻の代替品があれば年間何億ドルもの市場になるだろう。

規制は、より少量で効く新型の薬物の開発に拍車をかけることになる。少量であれば運ぶのがより簡単で、検出はより難しくなるからだ。違法ドラッグの製造者が、新製品の中身にかんして嘘をつくようになるのもまた、規制が原因だ。

製品の中身を偽装したり事実を偽ろうとする動機は、刑事上の罰を恐れてのことだけではない。市場が無法地帯であるという現実にも起因している。時間とお金を費やし、新しいグレー製品を開発しようとするものは、その利益を最大にあげるために、競合他社に自製品の詳細をわからないようにする(ということは、一般にもわからない)。特許と政府機関の認可による保護がなければ、スパイスの本質が明るみにでればたちまち安価なコピー品が出回るだろう。

ドラッグのカモフラージュはなにもレクリエーションドラッグ市場だけに特有のものではない。表向きは「ハーブの」薬品や栄養補助食品から、合成化学物質や調合薬が発見されているし、中国のハーブ製特許薬には、バルビツール酸系睡眠薬が含まれていたこともあった。20ハーブバイアグラとして売られていた製品を分析したら、シルデナフィル(バイアグラ)やその派生物質などの合成勃起不全薬の存在が明るみになったこともあった。21

近代の工業製品は移り変わりのサイクルが極端に速い。数週間たらずで新パッケージや新製品が大量生産される。製造者は、各製品ごとに化学物質の成分内容を変化させるだけでなく、ひとつの製品に加える化学成分そのものさえも時間とともに徐々に変化させているのだ。法律と競合他社を出し抜くために次から次へと内容を変えて。想像してみてほしい。季節ごとにパッケージや宣伝文句、内容の成分表示が変わってしまうプロフェッショナルな見た目の製品が、数十から数百もあったら、税関職員にとってその輸入をくい止めようとすることがどんなに難しいか。

スパイスは未来の味見

今回のスパイスの件は、信じられないくらい強力なドラッグが現れるであろう近い未来の予行演習のようだ。スパイス物語は、一部SF小説、一部規制のがれの密造技術、一部あくどい儲け主義ベンチャービジネスの要素を持っている。このレクリエーション“リサーチケミカル”カンナビノイドの新世代は、ハイテク秘密ドラッグの第一波であり、そのような類のものがさらにもっと、もう目の前までやってきているかもしれない。強力な新型ドラッグは、もはや正体が見えないだけでなく、ベテランの研究所であっても解明するのが難しいほどの専門技術・知識を用いて、あやふやに誤摩化されている。そういったドラッグが広がる土壌を生みだしたのは、前世紀からの圧力だ。スパイス現象は、絶え間なくうつり変わり、拡大を続けるあらゆる向精神薬に対応し、各薬物との組み合わせを調べ、技術を解明し、そのようにしてハーム・リダクションや健康上の情報を提供していく私たちの仕事で、これから先に直面するであろう複雑さを垣間見せてくれるのだった。

参考文献 #
  1. UK Intellectual Property Office. Trademark 2477963A. 2008.
  2. Morgan CJ, Curran HV. "Effects of Cannabidiol on Schizophrenia-Like Symptoms in People Who Use Cannabis". Br J Psychiatry. 2008;192(4):306-7.
  3. Shamantra. "Spice Contains HU 210?". EveryoneDoesIt.com. Accessed May 23, 2007. Thread 74135.
  4. Devane WA, Breuer A, Sheskin T, et al. "A Novel Probe for the Cannabinoid Receptor". J Med Chem. 1992;35(11):2065-9.
  5. Auwärter V. Personal communication. Apr 2009.
  6. Auwärter V, Dresen S, Weinmann W, et al. "'Spice' and Other Herbal Blends: Harmless Incense or Cannabinoid Designer Drugs?". J Mass Spectrom. Feb 2, 2009;44(5):832-7.
  7. Jack A. "The Story of Spice". Financial Times. Feb 13, 2009.
  8. Brecher EM, Consumer Reports Eds. "How to Launch a Nationwide Drug Menace." The Consumers Union Report on Licit and Illicit Drugs. Part VI - Inhalants, solvents and glue-sniffing, Chapter 44. 1972.
  9. Sidney S. "Comparing Cannabis with Tobacco—again". BMJ. 2003;327(7416):635-6.
  10. Iversen L. "Cannabis and the Brain". Brain. 2003;126(Pt 6):1252-70.
  11. Hashibe M, Morgenstern H, Cui Y, et al. "Marijuana Use and the Risk of Lung and Upper Aerodigestive Tract Cancers". Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2006;15(10):1829-34.
  12. Sidney S. "Cardiovascular Consequences of Marijuana Use". J Clin Pharmacol. 2002;42(11 Suppl):64S-70S.
  13. Tetrault JM, Crothers K, Moore BA, et al. "Effects of Marijuana Smoking on Pulmonary Function and Respiratory Complications: A Systematic Review". Arch Intern Med. 2007;167(3):221-8.
  14. Salazar M, Carracedo A, Salanueva IJ. "Cannabinoid Action Induces Autophagy-Mediated Cell Death Through Stimulation of ER Stress in Human Glioma Cells". J Clin Invest. 2009;119(5):1359-72.
  15. Guzman M. "Cannabinoids: Potential Anticancer Agents". Nat Rev Cancer. 2003;3(10):745-55.
  16. Anonymous. Personal Communication. 2009.
  17. Sand N. Personal Communication. 2009.
  18. Herkenham M, Lynn AB, Little MD, et al. "Cannabinoid Receptor Localization in Brain". Proc Natl Acad Sci. 1990;87(5):1932-6.
  19. UNODC. World Drug Report 2008. 2008.
  20. Boyer EW, Kearney S, Shannon MW, et al. "Poisoning from a Dietary Supplement Administered During Hospitalization". Pediatrics. 2002;109(3):E49.
  21. Gryniewicz CM, Reepmeyer JC, Kauffman JF, et al. "Detection of Undeclared Erectile Dysfunction Drugs and Analogues in Dietary Supplements by Ion Mobility Spectrometry". J Pharm Biomed Anal. 2009;49(3):601-6.
オリジナル記事

Spice & Spin-offs: Prohibition's High-Tech Cannabis Substitutes