前回の記事(アンドルー・ワイル (1) 大麻の議論はなぜ困難なのか)の続きです。プレゼンテーション動画も前回の記事に貼ってあります。
サイケデリックスのサイコソマティックな可能性
最近のサイケデリック研究はもっぱら、終末期のケアやトラウマの治療といった、心理的な問題の解決にフォーカスしていますが、私が関心を抱いているのは、サイケデリックスのサイコソマティックな可能性です。つまり、心身の相関性を活用することによって、身体過程や病気の状態を変えるとうことです。
私が実践している統合医療は、人体がもつ驚異的な自然治癒力を利用する医療です。人間は身体だけでなく、精神や魂から成り立っています。今まで大勢の患者、サイケデリックスの使用者と話しました。中には信じられないような話がいくつもあります。サイケデリック体験による認識の変化を引き金として、重病が改善したというのです。
私自身の例をあげます。私は子供のころから、なにかとアレルギー体質で、猫が苦手でした。猫が近づいてくるといつも追い払っていました。防御反応が頭の中に深く染み込んでいたのです。28歳のある日、田舎の美しい場所でLSDを摂りました。突然、猫が私の膝の上に飛び乗ってきました。一瞬、反射的な反応をしそうになったものの、ふと「こんなことはバカバカしいじゃないか」と思ったのです。そして、猫をなでたり、じゃれたりしてみました。アレルギー反応は起きませんでした。それ以来、猫アレルギーは治ってしまいました。すごいでしょう? 医者として、一体何が起きたのだろうと興味津々でした。
他にもあります。私は色白で日焼けができなかったのです。海に行って太陽に当たると私の皮膚はすぐに真っ赤になってしまいました。ある日、またLSDを摂って裸ではしゃいでいました。天気がよく気持ちのよい日だったので、外で寝転がってみようと思ったのです。「どうして私は太陽を怖がらければならないのだろう?どうしてふつうに日光浴を楽しめないのだろう?」と考えていました。すると、またたく間に日に焼けて黒くなったのです。それ以来いつも日焼けするようになりました。日差しの強いアリゾナに30年住んでいますが、もう赤くなることはありません。20年間も継続したパターンが、あっという間に変わってしまった。
慢性的な免疫疾患の患者が、場合によってはたった一回のサイケデリックスの使用で、症状が消えてしまったという劇的なケースも知っています。これ以上興味深いことがあるでしょうか。なぜ、サイケデリックスの研究者は、この点をもっと調査しないのか、不思議でなりません。
病気には、身体、精神、魂、社会といったあらゆる要素がかかわっています。身体と精神のつながりを利用することで、身体的な症状を改善できる可能性があります。そのための方法は、催眠や瞑想などいろいろあります。医学では、まだまだ未開拓の領域です。
過去に起きた誤解
サイケデリックドラッグは、すぐれた心身治療の道具です。過去のサイケデリック研究には障害がありました。サイケデリックスの体験は、期待・セットや環境・セッティングに左右されます。スタニスラフ・グロフのような初期の研究者は、自らの体験からサイケデリックスがどのような性質のものであるのかを熟知していたため、適切なセッティングで実験を行い、好ましい結果を引き出すことができたのです。けれども、サイケデリックスをよく知らない他の研究者が真似をしてみても同じ結果にはならなかった。彼らは、薬剤そのものの中に、魔法のような体験が含まれていると考えていたからです。思ったような効果が得られたなかったので、役に立たない薬だと言うようになったわけです。
サイケデリック研究の妨げになった道徳的な問題なども確かにありましたが、それだけではなく、サイケデリックスの効き方が、薬学の研究者がふだん扱う薬剤とは異なるという点が、大きな障害物になっていたのだろうと私は思います。単純に薬理作用のみで素晴らしい効果が起きるわけではないということを、なかなか理解してもらえません。
大麻は医薬品になるか?
国内の現在の医療大麻事情を見て、私はこう思います。医療使用と嗜好使用をはっきりと切り離す方法がみつかるまで、医療の専門家が大麻を医薬品として受け入れるのは難しいのではないでしょうか。現在の医療大麻の処方方法では、医療用と嗜好用の境目があいまいになっています。また、喫煙し、煙を吸い込むという形で摂取しなければならない薬を患者に勧めるのもちょっと気が引けると思います。大麻草の抽出物からなるスプレー剤サティベックスのように、医療従事者に馴染みのある形で、医薬品らしくパッケージされていればいいのですが。
大麻の研究も有望視しています。カンナビノイドのユニークな化学式から、脳がどのように、情報を受け取り、解釈するのかを調べたり、食欲や、傷みの感覚とどう関係しているのかを調べたらおもしろそうです。たとえば、大麻はアヘン鎮痛剤の効果を高めるので、大麻と併用すれば、アヘン剤の使用量を減らすことができます。
まとめ
サイケデリックスや大麻の研究から離れて何年も経ちますが、相変わらずサイケデリックスの途方もない可能性に驚かされます。気分が変わるとか、感情が安定するといったことだけではありません。病気の症状の認知の仕方、解釈の仕方を変えるという手法を用いて切実な重病と取り組み、ブロックされていた身体の治癒力を解き放つこともできるのです。
サイケデリック研究の再開は素晴らしいことです。実験の方法や、広報の仕方については慎重にならなければなりませんが、支持を得る可能性は大いにあります。長い間私たちが甘んじてきた、この時代遅れで役立たずの一般認識には今、変化の時が訪れていると思います。
***
ワイル博士の話を聞いて、昔、テレビで観たスプーン曲げの名人を思い出した。名人がスプーン曲げを披露し、タレント出演者達が真似してみるのだが、曲がらない。「スプーンは固いと思っているから曲がらないのだ」と彼は言う。「スプーンは柔らかい物で、簡単に曲がると信じなさい」けれども、そう信じようと努力しているうちはダメだ。やっぱりスプーンは固い、という思いがどこかにほんの少しでも残っていると曲がらない。それが完全に消え去った瞬間、スプーンは曲がるのだと言う。
いくらスプーンを曲げても人の役には立ちそうもない。けれども、思い込みを取り去ることによって病気がよくなるならば、大いに人の役に立つだろう。病気を治す他にも、様々な可能性が考えられる。極端な話、食事を摂らないと死んでしまうというのも思い込みで、人は本来、エネルギーの流れであるプラナを食べているだけで生きていけるのだと言う人までいる(裏は取っていない)。
アメリカでは、欠陥だらけの医療制度が問題になっており、仕事を持ち、中流の暮らしをしてきたにもかかわらず、事故や入院による突然の高額の医療費が支払えずに破産に追いやられる人が後を絶たない。低所得者向けの医療保険でカバーされない処方薬代もけっこうな出費になる。ワイル博士の最新の著書 “Why our Health Matters”(未読)では、医療保険問題の解決策として統合医療を提案しているようだ。今後、大麻も含めた代替医療や予防医療がさらに普及してゆくのかもしれない。